「医者が営業なんて……」と抵抗を感じる先生も多いかもしれません。しかし、訪問診療における営業とは、単なる「売り込み」ではなく、地域の困りごとを解決するための「医療相談」そのものです。
新規開業直後の最大の壁は「集患」ですが、立ち上げ期を振り返ると、正しいターゲット設定と医師ならではの強みを活かすことで、営業未経験でも確実に紹介の輪を広げてきました。本記事では、泥臭くも戦略的な地域連携のリアルな舞台裏を公開します。
セクション1:認知の土台を作る「行政リストへの掲載」と「センター攻略」
開業当初、どれだけ足を使っても「そもそも存在を知られていない」状態では依頼は来ません。まずはアナログとデジタルの両面で認知の土台を作ることが最優先です。
意外な盲点「市区町村のリスト」への自ら申告
訪問診療クリニックを探す際、ケアマネジャーや家族はネット検索だけでなく、市区町村が発行している「医療機関リスト」を頼りにしています。しかし、ここには大きな落とし穴があります。
- 自動的には掲載されない: 開業届を出せば載ると思いきや、実は「自ら申告しないと掲載されない」ケースが多々あります。
私自身の痛恨のミス:
実は私自身、このリストに掲載されていないことに気づくまで開業から3ヶ月もかかってしまいました。「開業したのにどうして記載されていないんだろう」と思い、役場の担当者に問い合わせて初めて申告制だと知ったのです。慌てて掲載してもらったところ、その直後から依頼の電話が体感で50%も増加しました。
まずは役場の高齢福祉課や医師会に確認し、公的なリストに名前を載せること。これが「選ばれる土俵」に立つための0歩目です。
地域の「情報のハブ」へ挨拶に行く
リスト掲載の手続きと並行して、挨拶回りを行います。戦略会議で推奨されているのは、訪問看護ステーションよりも「地域包括支援センター」および「ケアマネジャー」を最優先にすることです。
地域包括支援センターは、退院困難な事例や在宅生活が限界に達した高齢者の相談が集まる「情報のハブ」です。まずは地域のセンターを一通り回り、クリニックの存在と「どんな患者なら受け入れられるか」を認知してもらうことが第一歩となります。
セクション2:臨床力を武器に「他院が断る案件」を引き受ける
非医療従事者の営業スタッフにはできず、医師自らが行う営業にしかできないこと。それは「その場で医療的な判断を下し、困りごとを解決すること」です。
開業当初は「何でも対応する」気概で
ケアマネジャーやセンターの担当者は、「医療依存度が高い」「癌末期」「精神疾患がある」といった理由で、既存のクリニックに断られてしまった困難事例を抱えて困り果てていることがよくあります。
ここで重要になるのが、「初めのうちは、どんな依頼でもまずは受ける」という姿勢です。
- スポット対応や月1回でも全力で: 定期訪問につながらない単発の依頼や、頻度の少ない訪問であっても、「困っているなら、私たちが診に行きますよ」と快諾します。
- 「助けてもらった」経験が次を呼ぶ: 他で断られた案件を引き受けることで、担当者は「あそこの先生は本当に困った時に助けてくれる」と強く認識してくれます。その結果、その担当者から次の依頼が来るだけでなく、「あそこのクリニックは頼りになるよ」と別のケアマネジャーを紹介され、紹介の連鎖が生まれていくのです。
医師の「即答」が安心感を生む
具体的な処置(腹水穿刺など)や、精神疾患への対応について、医師がその場で「可能です」「まずは相談に乗ります」と即答できることは、圧倒的な強みとなります。私も腹水穿刺の可否に即答したことが第1号案件の獲得に繋がりました。
セクション3:紹介を逃さない「爆速レスポンス」と「調整術」
リストに載り、困難事例を受け入れる姿勢を見せたら、最後は「スピード」で他院と差別化します。紹介元の信頼を勝ち取るために最も重要なのは、営業トークの巧拙ではなくレスポンスの速さです。
医師への確認時間をゼロに近づける
地域包括支援センターから新規相談の電話が入った際、「院長に確認して折り返します(数時間後)」では遅すぎます。
ソース内の事例では、医師がオペ中や往診中であっても、事務スタッフが即座に状況を把握し、チャットツールなどを駆使して「数分以内に折り返す」連携が徹底されています。「あのクリニックは対応が早くて助かる」という評価が定まれば、次からは名指しで相談が来るようになります。
現場を知り尽くした「初回訪問の調整」
初回訪問(インテーク)の日程調整にもテクニックがあります。
- 時間は「14時」がベター: ケアマネジャーやセンター職員も同席しやすい時間帯です。
- 選択肢を提示する: 「14時がベストですが、11時も可能です」と複案を出すことで、関係各所の調整コストを下げ、成約率を高めます。
訪問診療の集患は、「n=1(一人目)の成功体験」を地域にどう波及させるかというゲームです。
- 行政リスト等で最低限の認知を作る。
- 医師が自ら足を運び、他院が敬遠する「困りごと」を「何でも受ける」姿勢で解決する。
- 爆速のレスポンスで「頼りになる」評価を定着させる。
最初は誰もが素人ですが、ソースにあるような「飛び込み営業」や「泥臭い電話対応」、そして「困った時のスポット対応」の積み重ねの先に、紹介が止まらないクリニックの未来が待っています。