訪問診療では、
- 「夜眠れない」
- 「何度も起きる」
- 「昼夜逆転している」
- 「睡眠薬を増やしてほしい」
といった相談を頻繁に受けます。
しかし、高齢者の不眠は単純な睡眠不足ではなく、
- 身体疾患
- 認知症
- せん妄
- 薬剤
- 生活習慣
など様々な要因が関与しています。
特に訪問診療では、睡眠薬の追加よりも「なぜ眠れないのか」を考えることが重要です。
この記事では、訪問診療における不眠の評価と治療について解説します。
① 夜間頻尿
# 不眠とは?
不眠症とは、
- 寝つけない(入眠困難)
- 途中で目が覚める(中途覚醒)
- 朝早く起きてしまう(早朝覚醒)
- 熟睡感がない
状態が続き、日中の生活に支障をきたす状態です。
高齢者では中途覚醒や早朝覚醒が特に多くみられます。
# 高齢者はなぜ眠れなくなるのか
加齢に伴い、
- 深い睡眠が減る
- 夜間覚醒が増える
- 睡眠時間が短くなる
ため、若い頃と同じ睡眠を期待することは難しくなります。
そのため、
「6時間眠れているのに本人が8時間眠りたいと思っている」
ケースでは治療が不要な場合もあります。
# 訪問診療でまず確認すべき原因
睡眠薬を増やす前に原因検索を行います。
最も多い原因の一つです。
原因
- 前立腺肥大
- 過活動膀胱
- 心不全
- 利尿薬
などがあります。
夜中に3~4回起きる患者ではまず確認しましょう。
痛みで眠れない患者は非常に多くいます。
確認ポイント
- 腰痛
- 変形性関節症
- がん性疼痛
- 褥瘡痛
認知症患者では
- 顔をしかめる
- 落ち着かない
などの非言語的サインも重要です。
睡眠時無呼吸症候群
特徴
- いびき
- 日中の眠気
- 肥満
心不全
特徴
- 夜間呼吸苦
- 起坐呼吸
- うつ病
- 不安障害
では早朝覚醒がよくみられます。
認知症では
- 昼夜逆転
- 夕暮れ症候群(サンセット症候群)
がみられます。
睡眠薬だけでは改善しないことが多くあります。
高齢者では重要です。
特に
- 急に眠れなくなった
- 夜間に興奮する
- 幻覚がある
場合はせん妄を疑います。
原因となる薬
- ステロイド
- 気管支拡張薬
- 一部の抗うつ薬
- カフェイン製剤
などがあります。
# 不眠治療の第一選択は非薬物療法
高齢者では睡眠薬よりも生活習慣改善が重要です。
日中の活動量を増やす
# 訪問診療でできる非薬物療法
寝たきりに近い患者では、
- 散歩
- デイサービス
- リハビリ
が有効です。
朝の光は体内時計を整えます。
可能なら午前中に15〜30分程度の日光浴を行います。
長時間の昼寝は夜間不眠の原因になります。
目安
- 30分以内
- 午後3時まで
- 寝室を暗くする
- テレビを消す
- 夜間の騒音を減らす
などが有効です。
高齢者では夕方以降の
- コーヒー
- 緑茶
- エナジードリンク
も影響します。
# 薬物療法はいつ行う?
以下の場合に検討します。
- 不眠による苦痛が大きい
- 日中機能が低下している
- 非薬物療法で改善しない
場合です。
# 訪問診療でよく使う睡眠薬
ロゼレム(ラメルテオン)
特徴
- 依存性がほぼない
- 転倒リスクが少ない
- せん妄予防効果の報告あり
高齢者では第一選択になりやすい薬です。
デエビゴ(レンボレキサント)
ベルソムラ(スボレキサント)
特徴
- 自然な眠りに近い
- 高齢者でも比較的安全
現在は高齢者不眠の主力となっています。
ミルタザピン(リフレックス®)
適応
- 食欲低下
- 抑うつ
- がん患者
を伴う場合です。
ケース1
# ベンゾジアゼピン系睡眠薬は慎重に
代表例
- デパス
- レンドルミン
- ハルシオン
- サイレース
問題点
- 転倒
- 骨折
- せん妄
- 認知機能低下
- 依存
高齢者ではできるだけ避けることが推奨されています。
# 訪問診療でよくあるケース
「眠れない」
↓
実際には夜間頻尿で4回起きている
↓
前立腺肥大を治療
↓
睡眠改善
「睡眠薬を増やしてほしい」
↓
日中ほぼ寝ている
↓
デイサービス導入
↓
夜間睡眠改善
「夜中に大声を出す」
↓
尿路感染によるせん妄
↓
抗菌薬治療
↓
改善
# 睡眠薬処方時の注意点
訪問診療では、
「眠れないから睡眠薬」
ではなく、
「なぜ眠れないのか」
を考えることが重要です。
睡眠薬は症状を抑えるだけで原因を治すわけではありません。
# まとめ
訪問診療での不眠診療では、
まず
- 夜間頻尿
- 疼痛
- 呼吸器疾患
- うつ病
- 認知症
- せん妄
- 薬剤性
を評価します。
治療の基本は、
- 日中活動量の増加
- 日光浴
- 昼寝調整
- 睡眠環境整備
などの非薬物療法です。
薬物療法が必要な場合は、
1. ロゼレム(ラメルテオン)
2. デエビゴ(レンボレキサント)
3. ベルソムラ(スボレキサント)
を中心に検討し、ベンゾジアゼピン系睡眠薬はできるだけ避けることが推奨されます。
訪問診療における不眠治療は、「睡眠薬を出す診療」ではなく、「眠れない原因を探し、生活環境を整える診療」であることが最も重要です。